記者会見場に立つ
人事というのは疲れるが面白いものだ。露骨に役職を望んで自らを売り込んでくるものもあれば、こちらからお願いしたい人物には断られたりする。竹中重治(半兵衛)には防衛副大臣をお願いしたが…断られた。組閣人事を苦労しながらも決めて認証式までは秒単位で動いていた気がする。
が、疲れを感じないのは自分がこの国の首班であるという高揚感であろう。などと考えながら記者会見場に向かう。記者会見場に入ると多くのカメラのフラッシュが焚かれ、自分がその中心にいるということを実感する。
所定の位置につくと司会が記者会見の開始を告げる。
「それでは、時間になりましたので記者会見を開始します。質疑応答については挙手いただき指名された方はご所属と…」
記者たちだって素人じゃあるまいしそんな分かりきったことを説明せずともと思いつつ質疑応答の開始を待つ。
副首相、財務大臣の人事について
そして多くの記者が挙手をしているが、最初の一人は気心のしれたベテラン記者を指名する。
湘南新聞のオオイソと申します。まず内閣人事についてお伺いしたいと思います。副首相に毛利元就氏を起用されました。総理大臣選出に立候補し選出されなかった氏を副首相という重要ポストで起用するのは異例ではないかと思いますがこの点、いかがでしょうか?また財務大臣の石田三成氏ですが、過去の実績があるとは言え一部方面と折り合いが悪いとの報道もあります。この2点について質問させてください。
実際の言葉
まず毛利殿は中国地方において様々な策を駆使して大きな勢力を築かれた方です。現在の日本国を再発展途上国と位置づける私の立場からすると是非お力をお借りしたいと考え就任をお願いした次第です。また石田殿については様々な報道がなされていることは存じ上げていますが、虚心坦懐にその能力を見ると財務大臣には石田殿が最もふさわしいと考えました。
(心の言葉)
毛利の質問を最初に持ってきて、第2回投票の論功行賞ではないか?という質問を封じてくれたのは有難い。そうは口が裂けても言えぬし。石田の話も報道が勝手に作った話が多いが、まさか質問されて、あれは嘘だ と言わずに済むのも助かる。まあ、日頃、懇意にしている記者だけあるな、うむ。今度酒でもおごってやろう。
徳川派の提灯持ち記者の質問
次に徳川家康の提灯持ちを指名する。
関東新聞のヒガシと申します。続けて内閣人事についてですが、国土交通大臣に太田道灌氏を起用されました。太田氏は関東地方の開発に携わられていましたが、その規模は他の方に比べて若干見劣りがするのではないかという意見もあります。また官房長官の今川義元氏と副長官の黒田孝高(官兵衛)氏について、黒田氏に関しては役不足という印象がありますがいかがでしょうか。
実際の言葉
現代につながる関東地方開発の基礎を太田殿が築かれたと考えています。日本を再成長させる過程で太田殿の手腕をお借りしたいという意味でお願いしたところ快くお引き受けいただきました。内閣官房の今川殿と黒田殿についてはどちらが長官、副長官という観点でなくお二人に内閣官房を担当していただきたいということです。
(心の言葉)
関東地方の開発が徳川家康から始まったと勘違いしている輩か?大田殿や自分こと北条氏康が徳川家康に先んじて関東地方の各所を開発していたことを知らないんじゃないか、バカモノがっ。それに異才を放っておくのはもったいないが徳川に近い黒田を官房長官に起用するわけないだろ。論功行賞といわせたいのか?それとも単なるバカモノなのか。うむ、バカモノだな、この記者。唯一「役不足」の使い方が正しいのが救いだな。
氏康を激怒させる質問
次は政権たたきで知られる記者。
朝夕新聞のイマイチです。首相ご自身の政権運営についてお伺いします。どうしても「小田原評定」の印象が強く、政権運営が前に進まないのではないかと言う懸念がある点についていかがお考えでしょうか?また官房長官の今川氏、防衛大臣の武田氏などは首相と非常に近く、お友達内閣の印象が強いのですがこの点いかがでしょうか。
実際の言葉
小田原評定はもともと北条家内の重臣による合議制のことです。合議ですからご指摘の意思決定が慎重になる点はあるかもしれませんが、様々な視点が加わるので良い点も多くあります。今川殿、武田殿とは目指す方向性が近いという点でご協力をお願いしました。単なる友人関係のような単純な人事ではないことは申し上げておきます。
(心の言葉)
世が世なら打捨(後の斬捨御免)にしてやるところだ。おっと、私の時代ではない言葉だなこれは。小田原評定も今のような悪いイメージが付けられたのは江戸時代に入ってからで、私の頃にはまだこんな誤解はなかったのに。
それにだ…駄目な意味の小田原評定も私の前世じゃなく子の氏政と孫の氏直の時で氏康は関係ないぞ。やっぱり斬ってやろう。それに お友達 だ?さんざん苦労して同盟関係を結んでいるのがわからないのか。うん、やっぱり斬ってやろう。
この物語はもちろんフィクションです