胎児の免疫(2017年6月15日 藤田明希)
人間はかならず胎児だった頃があります。その胎児期には成人とは異なる免疫系を持っていたという研究がNatureで記事として取り上げられました。イメージでは胎児自体には免疫力はなくて母親の免疫力に便乗して、その中で成長していくイメージがあったので少々意外です。
勿論、成人と同じような後天的な免疫ではなく、先天的に持ち合わせていて、ごく弱く反応するのが特徴です。当たり前のことですが、DNAレベルで異なる母親の胎内にいる限り、もし強い免疫が働いたとしたら胎児にとっても母体にとっても大変なことになります。だから胎児には免疫はないと考えられていましたが、ないのではなく別のメカニズムが存在するとのことです。
これに最も注目しているのは臓器移植を専門とする医師や研究者たちです。臓器移植では患者の免疫に基づく移植臓器への拒絶反応の制御が重要です。完全に拒絶反応を抑えようとすれば免疫力不足で他の感染症に対する抵抗力が失われますし、抑えなければ拒絶反応で移植は失敗に終わります。従って胎児が母体の中で育っていくうえで十分な強さの免疫力でかつ母子ともに健康という状態を実現する免疫力は彼らにとって非常に興味深いものです。
こう考えてみると人が毎日をなんとなく過ごしている裏側では非常に洗練され、複雑でけれどもみんなが当たり前に持っていた、あるいは持っている仕組みが働いていることに驚きます。